ユーザーエクスピリエンス
User experience の訳語としてのユーザー体験とユーザー経験にどっちも微妙な違和感があってずっともやもやしてたんだけど、やっとそれを言語化できさうな気がしてきた。
User experience の意味は「ユーザーがその製品を使ふことで得る効用」といった辺りだと思ふ。といってもこれだけだと utility との違ひが感じられにくいが、user experience の方は特にユーザーの感情への影響に重きがある。例へば編集操作がスムーズにできて心地よいとか、ゲームをプレイして楽しいとか。
体験といふ言葉の意味は、多くの国語辞典には「自分自身で体感した経験」みたいな説明しかなくて、これだけだといまいちニュアンスが分かりにくい。この言葉の意味は、「経験を通じて対象がどの様なものなのかを知ること」である。特に、どの様なものなのかを知るといふ部分が体験といふ言葉の用法において重要である。従って、体験入学とか体験版といふ言葉はあるが経験入学とか経験版みたいな言ひ方はしない。
どの様なものなのかを知るといふのはユーザーの得る知識に関する事柄であるが、user experience といふ言葉が指すものは知識に限られないので、これをユーザー体験と訳すのは意味のずれがある。
経験といふ言葉の意味は体験よりもやや広いが、しかしこの言葉は基本的に本人がその経験を通じて何らかの恒久的な影響を得る時にしか使はれない。それは知識なり教訓なり技術なり本人が何らかの形で身に付けるものであることが多いが、単にそれをやったといふ事実を残すだけといふ場合もある。どちらにしても、ゲームをして楽しかったとか温泉に浸かって気持ちよかったとか、さういふ一時的な感情を指して「経験を得た」とは言はない。
User experience といふ言葉が使はれる場面では、ユーザーに対して恒久的な変化をもたらすことは必ずしも想定されてゐないので、これをユーザー経験と訳すのもやはり意味のずれがある。
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